ドラマでよくある場面です。
スマホを、変な金属の箱に入れる。それだけで、「これで位置は追えない」。
「そんなに簡単なの?」と思ったことはありませんか。私は思いました。
先にお断りします。ドラマの該当シーンそのものは、私は確認していません。 この記事は、現実の技術として成り立つのかを、確認できた範囲で整理したものです。
結論
- 電波を遮る箱や袋は、実在します。 位置の「追跡」は、これで途切れます
- ただし、GPSそのものを妨害しているわけではありません。通信が止まるから、追えなくなるのです
- 「電波を遮る」と「電波を出して妨害する(ジャミング)」は、別のものです
- 衛星通信への攻撃は、実際にありました。ただ、報じられている範囲では、衛星本体ではなく、地上側のシステムが狙われた例です
- 追跡が途切れること自体が、手がかりになります
そもそも、スマホは何で追われているのか
まず、勘違いしやすい点です。
GPSは、受信専用です。 スマホが衛星に、自分の位置を送っているわけではありません。衛星から届く信号を、スマホが受け取って、自分で位置を計算しています。
では、他人が位置を知るのは、なぜか。
スマホが、その位置を、基地局やインターネット経由で、外に送っているからです。地図アプリの共有、紛失防止タグ、サービスの位置情報、通信そのものの記録。
位置の決まり方については、スマホは自分の位置をどう知っているのかで整理しています。衛星、基地局、Wi-Fi、Bluetooth、センサーの5つの手がかりの突き合わせでした。
つまり、追跡を止めるには、2つの道があります。
- スマホが自分の位置を知れないようにする
- スマホが位置を外に伝えられないようにする
箱に入れると、この両方が、同時に起きます。
電波を遮る箱の中で、何が起きているか
電波を遮る仕組みは、ファラデーケージとして知られています。英語版Wikipediaの説明に沿って、書きます。
- 外から電波(電界)が当たると、金属の中の電荷が動いて、箱の中の電界を打ち消す
- 結果として、箱の中に入る電波も、中から出る電波も、大きく弱められる、または遮られる
エレベーターの中で、電波が入りにくくなるのも、金属の枠に囲まれているためです。同じページには、エレベーターのような金属の枠の部屋は、携帯電話の「圏外」になりやすい、と書かれています。
スマホを入れる専用の「ファラデーバッグ」も、あります。ページによると、携帯電話のプライバシーの保護や、クレジットカードのICタグの不正読み取り対策に使われます。デジタルフォレンジック(デジタル機器の証拠調査)では、遠隔操作でデータを消されるのを防ぐために使われる、とも書かれています。
つまり、「スマホを箱に入れて電波を断つ」という発想自体は、現実にあります。
関連:エレベーターや地下で電波が弱くなる話は、電波が弱いときの対処にあります。
完璧ではない:遮れない条件がある
同じページには、遮る性能に限界がある、とも書かれています。
- すき間の大きさと、電波の波長の関係:波長の短い電波ほど、網目のすき間を通りやすい。高い性能を出すには、すき間が波長より小さい必要がある
- 金属の厚み:薄いと、効果が落ちる
- 網目より、板のほうが広い範囲の周波数に効く
- 周波数ごとに効き方が違う:携帯電話は複数の周波数を使うため、ある周波数は遮れても、別の周波数は通ることがある
また、製品ごとの試験結果は、確認できたページには書かれていませんでした。「袋に入れれば、必ず完全に遮れる」とまでは言えません。
ジャミングは、まったく別のもの
ここで、混同しやすい話をします。
| 電波を遮る(箱・袋) | ジャミング(妨害) | |
|---|---|---|
| 何をするか | 電波が入らない・出ないようにする | 強い電波を出して、本来の信号を聞こえなくする |
| 電波を出すか | 出さない | 出す |
| 影響の範囲 | 箱の中のスマホだけ | 周囲の機器にも及ぶ |
| 例えるなら | 耳栓 | 大音量で、周りの会話をかき消す |
ジャミングは、受信側が「信号」と「ノイズ」の比で聞き取る性質を使います。ノイズを大きくすると、信号が拾えなくなります。データを盗むのではなく、通信を使えなくするものです。
もう1つ、**スプーフィング(なりすまし)**があります。偽の信号を送って、受信機に、偽の位置や時刻を信じ込ませるものです。GPSでの偽装が、代表例です。
ジャミング用の機器については、日本の法律上の扱いを、私は一次情報で確認できていません。罰則などは断定しません。ただ、周囲の通信を妨害するものなので、使わない・買わない・持ち込まないのが前提です。
衛星への「ハッキング」は、実際にあったのか
あります。ただし、イメージとは違う形でした。
2022年のViasat(KA-SAT)への攻撃は、英語版Wikipediaの記載によると、次のとおりです。
- 2022年2月23日、攻撃者が、ヨーロッパの衛星通信事業者が管理する管理センターのVPNに侵入した
- そこから、モデムの情報を持つ管理サーバーに到達し、さらにモデムへのソフトウェア更新を配るサーバーを使って、データを消すマルウェアを配った
- 2月24日(ロシアによるウクライナ侵攻の日)、数千台のモデムが使えなくなった
- 影響はウクライナ以外にも及び、ドイツの風力発電機約5,800基の遠隔管理にも支障が出た
- 2022年5月10日、EU・米国・英国が、ロシアによる攻撃だと非難した
注意点があります。このページは、冒頭の説明と、出来事の欄で、記述が食い違っています。出来事の欄は、地上側のVPN、管理サーバー、更新サーバー、モデムへの攻撃として書いています。衛星本体への侵入とは、書かれていません。
ここは断定しないでおきます。ただ、報じられている範囲で言えることは、これです。
衛星の「ハッキング」は、宇宙の衛星そのものではなく、地上の管理システムやモデムが狙われた例が、よく知られている
つまり、現実の攻撃は、映画のような「衛星を乗っ取る」より、地上のシステムに入る、という地味な形が目立ちます。(これは、前に書いたVIVANTのハッキング、現実との比較の話とも、重なります)
追跡が「途切れる」ことの意味
最後に、見落としやすい点です。
箱に入れると、追跡は途切れます。ただ、途切れ方そのものが、情報になります。
- 最後に電波が届いた場所と、その時刻は、記録に残る
- そこで「消えた」という事実が、手がかりになる
- スマホ以外の記録(防犯カメラ、交通系ICカード、決済の履歴など)は、箱では消せない
これは、私の見立てです。確認できたページに、追跡する側の手順が書かれていたわけではありません。ただ、仕組みから考えると、「消える」こと自体を、手がかりにされる可能性はあります。
まとめ
- 電波を遮る箱・袋は実在する(ファラデーケージの原理)。すき間・厚み・周波数によって、効き方は変わる
- GPSは受信専用。追跡が途切れるのは、位置を計算できなくなるうえに、外へ伝えられなくなるから
- 「遮る」は電波を出さない。「ジャミング」は電波を出して妨害する。別物
- 2022年のViasat攻撃は、記載の範囲では地上側のシステムとモデムが狙われた例
- 追跡が途切れること自体が、手がかりになりうる
ドラマの場面は、現実の技術を、分かりやすく誇張したものだと思います。ただ、「箱に入れたら終わり」ではない、というのが、実際のところに近いのではないでしょうか。(私の見立てです)
出典:
- Wikipedia(英語版)「Faraday cage」「Viasat hack」
- ケータイ Watch「スマホの位置はどうして正確に分かるの?」(2026年9月30日) https://k-tai.watch.impress.co.jp/docs/column/fujioka/2144245.html
書かれていない内容(日本の電波法での罰則、ジャミング機器の具体的な扱い、製品別の遮蔽性能)は、確認できていません。
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